- Vetraは1927年創業、4世代続くフランスの作業着ブランド
- タグの地名で絞れるのは下限だけ。何年の一着かまでは決まらない
- タグに地名や住所が残っているか確かめよう
Vetra(ベトラ)のタグが付いた一着を前に、いつ頃の服なのか見当がつかないまま、買うかどうか迷う。古着ではよくある場面です。
調べた限り、年代を絞る手がかりは1つしか見つかりませんでした。Vetraは創業から拠点を変えていて、タグに残った地名が、その時期と結びついているからです。
この記事では、名前の由来と創業のいきさつに加えて、タグで確かめられることと確かめられないことを分けてお話しします。年代を理由に迷っている方は、参考にしてみてください。


私も「古めのVetraだな」くらいしか見当がつきませんでした。それでも、タグは必ず見ます。
新潟・沼垂から、古いものの話をぽつぽつ書いています。1940〜80年代のアメリカ・フランスのワークウェア、フレンチヴィンテージ、ブロカント。そういうものを扱う小さな店です。
Vetraとは?名前の由来と創業からの歴史


Vetraは1927年にパリで始まったフランスの作業着ブランドです。社名は「作業着」を意味していて、創業から今の代まで働く人の服を作り続けてきました。
- 名前の由来は「作業着」
- 結婚祝いの工房から始まった1927年
- 1930年の移転と4世代の家族経営
私が店で扱ったのは、60年代前後のワークジャケットやパンツでした。
名前の由来は「作業着」
「Vetra」という社名は、フランス語のVêtements de Travail(ヴェトマン・ド・トラヴァイユ=作業着)を縮めたものだと、Heddelsが伝えています。読みは「ベトラ」です。
結婚祝いの工房から始まった1927年
創業は1927年のパリ。Édouard Beerens(エドゥアール・ベーレンス)が、母親から結婚祝いに譲り受けたエプロンとオーバーオールの工房を元に始めた、とVetraの公式サイトは記しています。
出発点が贈り物だった、というのが面白いところ。事業計画から立ち上げた会社ではなく、手元にある工房を引き継ぐかたちで始まっています。
1930年の移転と4世代の家族経営
創業から3年後の1930年、手狭になった工房はフランス北部のLambersart(ランベルサール)へ移ります。
公式サイトによれば、1939年のVetraはフランス軍の制服を作っていました。翌1940年5月19日、Édouardはナチス・ドイツへの協力を拒んで自社の機械を破壊したと同サイトは記しています。一家はフランス西部のLe Lude(ル・リュード)へ逃れ、1941年にそこで生産を立て直しました。レジスタンス(対独抵抗運動)の制服も作った、とも記されています。
代は、創業者ÉdouardからClaude、Patrickへと渡りました。公式サイトによれば、現在は4代目が会社を率いています。
100年近く、同じ家族が作業着を作り続けている。服より先に、仕事が受け継がれてきた会社です。
手元に来た一着が何年に作られたかは言えません。会社の側は、1940年5月19日と日付まで残している。古着を扱っていると、この落差にときどき出くわすんですよね。
モールスキンという生地の見方は、こちらで詳しくお話ししています。
Vetraのタグから年代はどこまで絞れる?


使える手がかりは、タグに入った地名だけです。Lambersartの表記なら1930年以降、Le Ludeなら1941年以降。
- タグの地名から年代を絞る
- よく見る年代の見分け方は本当か
- 年代が決まらない一着をどう選ぶか
私が店でVetraを見るときも、始まりはタグです。
タグの地名から年代を絞る
Vetraは創業から拠点を変えてきました。タグに地名や住所が入っていれば、この年表と突き合わせられます。
| 時期 | 所在地 | 住所 |
| 1927年〜 | パリ | rue de Bretonvilliers 3(パリ中心部の中州にあるサン・ルイ島) |
| 1930年〜 | Lambersart(フランス北部) | rue du Bourg 100 |
| 1941年〜 | Le Lude(フランス西部) | rue du Château |
| 1964年〜 | Noyant(ノワイヤン)に新工場 ※移転ではなく建設 | 公式に記載なし |
出典=Vetra公式「Savoir-faire」(1941年以降の住所と1964年の新工場はこちらに記載)。
ただしこの地名なら何年、と一対一では決まりません。移った直後にタグの表記がすぐ切り替わったのかどうかは、公式にも書かれていません。だからわかるのは「これより古くはない」という下限だけです。
タグに地名や住所が入っていなければ、年代を絞る手がかりはここで尽きます。
よく見る年代の見分け方は本当か
古着の販売ページやブログでは、SANFOR(防縮加工)の表記やタグの色を年代の目安にする説をよく見かけます。
調べた結果、SANFOR表記やタグの色とVetraの製造年代を結びつける資料は見つかりませんでした。出てきたのは、再販サイトの商品説明と個人ブログだけ。SANFORは防縮加工の商標として業界で広く使われてきた名前で、Vetraが独自に付けたものでもありません。
「そんな説は存在しない」と言いたいわけではありません。確認できなかった、というのが正確なところです。資料が出てくれば話は変わります。
年代が決まらない一着をどう選ぶか
年代が決まらなくても選べます。
同じ年に作られた服でも、その後どう着られてきたかで一着ずつ違うので、年代は、一着を選ぶ理由の一部でしかないと考えています。
何年からがヴィンテージと呼ばれるのかは、こちらで整理しています。
Vetraは他のフレンチワークと何が違う?


同じフレンチワークとして名前が挙がる他社と比べたとき、違いが出るのは「誰が作り続けてきたか」という点です。
- Vetraもフレンチワークジャケットの1つ
- 同じ型を作ってきた他のブランド
Vetraがどの系譜のどこにいるのか、順に見ていきます。
Vetraもフレンチワークジャケットの1つ
フレンチワークジャケットは、フランスの働く現場で着られてきた上着の総称です。Vetraは、その型を作ってきた1社です。
同じ型を作ってきた他のブランド
よく名前が挙がるのは、次の2社です。
| ブランド | 創業 | いまの担い手 |
| Vetra | 1927年 | 創業家のBeerens家が4代目 |
| Le Mont Saint Michel | 1913年 | 1998年からAlexandre Milanのもとで再生 |
| Adolphe Lafont | 1844年 | Cepovett Groupのブランド |
この表は2026年8月時点の各社公式サイトの記載をもとにしています。Le Mont Saint Michel(ル・モン・サン・ミッシェル)は、1913年にPontorson(ポントルソン)で生まれた作業着ブランドです。同社の公式サイトには、1998年に立て直したAlexandre Milanは創業家とは別の繊維一族の出だと記されています。Adolphe Lafont(アドルフ・ラフォン)は3社で最も古く、Lafontの公式サイトによれば、いまは企業グループのブランドです。
各社の公式サイトをたどる限り、創業家がそのまま作り続けていると書いているのはVetraだけです。だから生地がいい、とは言いません。会社の来歴で服の良し悪しは決まらない。それでも、手元の一着がどこから出てきたのかを知っていると、値札の見え方は変わります。
襟とポケットで型を見分ける手順は、別の記事にまとめました。
Vetraに関するよくある質問


よくある質問を3つ。
- Vetraは今も作られていますか?
-
公式サイトによれば、いまも作られています。創業家のBeerens家が4代目まで引き継いでいる会社です。
古着でタグを見つけると「もう無くなった会社かな」と思うかもしれませんが、そうではありません。
- 名前の意味は?
-
Vêtements de Travail(作業着)を縮めた形だとされています。ブランド名が、そのまま生業を名乗っているということです。
- 新品と古着、どちらで手に入りますか?
-
どちらでも手に入ります。新品なら正規の取扱店やブランドの直販、古着ならユーロ古着を扱う店やオンライン。
選び分けの基準はサイズを実物で確かめたいかどうか。古着は年代によってサイズ表記の基準が違うことがあるので、触れる店のほうが安心です。予約制の店もあるので、行く前に確認してみてください。
私が店に置いてきたのは古着のほうです。同じ型でも、着られてきた年月のぶんだけ一着ずつ違う。そこを面白いと思うなら、古着から入るほうが楽しいはずです。
まとめ:Vetraは4世代の家族が作る作業着
手元の一着が何年に作られたかは、タグの地名で下限までしか言えません。それでも、この会社が何を作り続けてきたかは記録に残っています。
- 社名はVêtements de Travail(作業着)の略とされる。何を作る会社かを名前で言い切っている
- 1927年のパリで、母から結婚祝いに譲り受けた工房が出発点だと公式サイトは記す
- 拠点はパリ→Lambersart→Le Ludeと移り、1964年にはNoyantに新しい工場が建てられた
- 手元の一着のタグに地名があれば、年表と突き合わせて年代の幅を絞れる
- SANFOR表記やタグの色で年代を当てる説は、一次資料では裏づけが取れなかった
- この3社のうち、創業家がそのまま作り続けていると公式に書いているのはVetraだけ
私が店で扱った60年代前後の一着は、ユーロワーク(ヨーロッパの作業着)が好きだという男性のお客様が連れて帰りました。年代を確かめきれない服が、それでも誰かのもとへ渡っていく。それがこの商売だと思います。


年代がわからないと落ち着かない、という気持ちは私にもあります。それでも、わからないまま手元に置いておける服のほうが、結局は長く付き合える気がします。


